フェフさんと、アムの顔合わせは剣呑なこともなく、穏やかに済んだ。
……勿論、そういった緊張が走りはしたけれど。
刃を合わせ……ろくでもない目にあった間柄だ。しこりが無いわけでもないはずだ。
けれどフェフさんはそういった感情を叩き付けるよりも、受け流すというか……呑み込んでいるようで。
烈火のような人かと思っていたけれど、決して手では掴めない火のような人なのかもしれない。
彼らとの間にどのような戦いがあったかは、聞いていない。
おそらく、酷いものだったのだろう。デタラメな魔物と、デタラメな戦闘力のぶつかり合いだ。
そしてそれは現在へと影響を残している。
修道院跡に戻ると、アルテイシアさんが忙しそうに片付けをしていた。
心なしか表情が、硬い。表情豊かな方ではないけれど、それでもなにかどこか……ひっかかるものがあった。
けれど、フェフさんの「ただいま」という声に彼女は───
私たちは、無言で席を外した。久しぶりの再会を邪魔するような野暮はしたくはない。
そうして歩いていくと中庭で違和感に気付いた。
誤摩化してあるけれど芝や植え込みが荒れた痕跡がある。ここで何かがあったのは間違いない。
賊でも入ったのだろうか。けれど、聞いてみても曖昧にはぐらかされるだけだった。
なんでもない、たいしたことはないと。
そうして暫く休憩した後、念のためフェフさん立ち会いの元で顔合わせを済ませた。
口頭での説明の後、セーブモードからヒトガタへと姿を変える。
この辺りはアクエスさんの入れ知恵だ。段階的にでも、ショックはなるべく和らげたほうがいい。
アルテイシアさんも冷静というか……慎重な対応だった。
機械、だからだろうか。その冷静さはこの場合、ありがたかった。
父のその後のことなどを聞かれたりしていたが、その辺りはアムもよく知らないことなので
特に得られることのないまま、解散となった。
疲れも溜まっていたけれど、急速に気疲れしたのでぐったりとベッドに倒れ込むと
すぐに睡魔に囚われてしまった。寝る前にもう少し、片付けておきたかったのに。
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──■SIDE：金雀枝──
森を駆ける 森を彷徨う
アテもなく 確信もなく。
けれど、とてもではないが座して待っていられる心境ではなかった。
虚空へと消えた妻と、その腹のやや子。
またか。またなのか。
俺はまた、喪うのか？
焦燥感が身を、心を焦がす。
克服したはずのトラウマに囚われる。
どうしようもない苛立ちを、その道を塞ぐ不運な魔物に叩きつける。
業火が灼き尽くす。
容赦なく、不必要なまでに。
月が霞み、歪み、滲む。
湖面の月をヒトの手は掴めはしない。
森を駆ける 森を彷徨う
暁の空に孤翼が呻き、羽撃く
はぐれてもう、戻れない。
森を駆ける 森を彷徨う
深く冥い迷いの森で ただ、独り。
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■”SummerVacation”
夏。
容赦ない日差しが照らす。朝からしっかり暑い。
夏といったら海とか花火とかそういったものらしい。
何故かイベント好きというかそういうイベントを逃さない性質のこの島らしく、全体的に賑やかで浮ついている。
そんな私の気分もどこか浮ついて熱っぽいかもしれない。
ついつい、水着も新調してしまった。
まぁ、泳ぎに誘われたけど水着なんて持ってなかったから新調せざるをえなかったのだけれど。
朝からダルそうなアクエスさんの手を引っ張って砂浜へと繰り出す。
アムはどうするか聞いてみたら留守番してるというから置いてきて雑用を押しつけてしまった。
他のメンバーはまちまちだけど半数ぐらいは海へと繰り出しているようだった。
ちょっと緊張しつつ、水着姿を見てもらったら
「可愛いね。似合ってるよ」
と、笑顔で言ってくれたのでわりともう満足してた。ミッションコンプリート。
セクシー系ではちょっと攻めきれなかったので不安だったりしたのだ。
でも、アクエスさんはどうやら泳いだりする気は無いようでパラソルの下で暑そうにだらっとしてる。
こちらを見ていてくれるし、手を振ると振り返してくれるけれどルアさんとなんか話してるのがちょっと気になる。
気になってチラチラ見てしまう。
んー、海に連れ出したのは失敗したかなぁ。
ルアさんはなんか意外とえげつない水着だし。
普段が普段だからあの人、もっと地味だと思ってたんだけどなぁ。やるときはやるじゃんって感じ。
昼は焼きそば。
ちょっと高いけどまぁ、海の家ってこんなもんだよねぇ。雰囲気雰囲気。
……プラス場所代、かな。
アクエスさんと並んで座って頬張る。香ばしくてなかなかおいしい。
ここぞとばかりに肩を預けてみたりとかひっそり楽しんでる自分がちょっと……なんだろう。どうなの？
午後からは友達とちょっと遠くまで泳いでくるね、と別行動。
フレグランスくんを軽く紹介して海へと繰り出す。
「僕、……で、デートに誘ってるんだからね、ネアリカちゃん」
だって。背伸びしちゃってかわいいなぁ。
そういうのどこで覚えてくるんだろーなーと思いつつ。
フレグランスは怪人とか呼ばれてるけどべつに悪さとかしてるワケでもなく
素直で、なんだか私に懐いてくれている。かわいい弟みたいな感じ。
……図体デカいしゴツいけどね。
まぁ、私も戦闘用の姿はあんなんだし、その辺で親近感はあるのかもしれない。
ホントに弟とか居たらこんな感じなのかなぁ。もっと生意気かなぁ。
水中用のフォームと聞いていたけれど、なんだかひらひらしててかわいい。
熱帯魚とかみたいな感じ。背中が乗りやすくなってるのは気を遣ってくれたのかな？
フレグランスの身体は随分と大きく変わる。
たぶん、構造的に当人も把握しきれないぐらい姿をもっているんじゃないだろうか。
それを使いこなすには経験が圧倒的に足りてないのだろうけれど。
……そこは偉そうに言えないか私の場合。
フレグランスの背中に乗って、沖の小島へ。
座り心地は良くてなかなか快適だった。ちょっとお尻痛くなってるけど。
小島は人影もなく、静かだし、花とか鳥とかきれいでいい感じのスポットだった。
フレグランスはあちこちできれいなものを見つけては嬉しそうに私に届けてくれた。
きれいな花、貝殻、石、etcetc……
どんどん積まれていくそれらと、一生懸命なその様子を微笑ましく見ていた。
頃合いを見て休むように促すと、隣に座ったが暫くすると何か閃いたらしく楽しげに細工をはじめた。
無骨な指が、器用に繊細に滑らかに動く。
つい忘れそうになるけれど、彼は細工師としての面もあるのだった。
そうして組み上げたかわいい髪飾りをフレグランスが差し出してくる。私にくれるというのだ。
うれしいけれど、すこし驚いてしまった。やっぱり物を貰うのはどうも慣れない。
お礼を言い、せっかくなので、着けてもらうことにした。
なんだか慌ててたけど嬉しそうだったから良かったんだろう、たぶん。
その様子も可愛いくてつい口元が緩んでしまう。
「ありがとう、今日は楽しかったね。またなんか遊ぼうねー！」
砂浜に戻り、手を振って笑顔で別れる。
いや、彼の表情はわかりにくいのだけれど、そこは仕草や雰囲気で。
夕日が、砂浜を赤く染めていく。
さくりさくりと砂を踏みしめ歩く。
それぞれの場所へ。それぞれの待っていてくれる人の元へ。
▲CLOSE？
